「いらっしゃ~い。安くしとくよ~」

 ここはコモド。
 ミッドガッツ王国有数のサマー・リゾートだ。周りを見ればべたべたひっついているカップルばかり。その数、いつもの倍以上。

 それもそのはず、今日はバレンタインデーなのだ。
 ホテルはどこも満員だが、俺の手伝っているマッサージ店は閑散としている。
 モンクお得意の気孔の技術を生かしてバイトを始めたのはいいが、今日はさっぱりだな。

 まぁ俺も、この後はプロンテラのお店でお気に入りのプリちゃんに呼ばれてるからいいんだけどさ。きっと愛のこもった手作りチョコレートが俺を待っていることだろう。入店料がバレンタインデー特別仕様で倍の料金なのが気になるが。あと、お金に困ってるって言ってたからお小遣いあげないとな!


「はぁ」
 俺は溜息をついた。
 呼び込みしても誰も来ないし、中で時間でも潰すかな。

 俺は店員用の休憩室に引っ込んだ。
 休憩室つってもマッサージ室の隅っこをすだれで仕切っただけのようやく寝転べる程度のスペースなんだけどよ。

 と思ったら、ドアの開く音がした。
 扉にぶら下げられた木彫りの装飾がカランカランと来客を告げる。

「いらっしゃいませ~」
 すだれのスキマからそっと覗くと、悪魔のヘアバンドをつけた女パラディンが入ってきて、壁にでかい槍を立てかけているのが見えた。

 こんな日に女ひとりで来客かよ!
 ま、こんな日に働いてる俺も人のことは言えないが。

 しかし、この女……どこかで見た覚えが……。

「鎧だけ脱げばいいんだよな?」
 そう言ってこちらを向いたその顔は、間違いなく知った顔だった。
 流れるような黒髪に、獲物を狙う猛獣のごとく鋭い瞳……以前、PVPに呼び出して俺をボコボコにした男女のクルセイダーだ。
 名前は確か……クリスだったか……。

 つーか、て、転生してたのか!

「はい、鎧だけで結構です」
 俺は冷汗を流しながら、すだれ越しに声をかける。
 女は慣れた手つきで鎧を脱ぎ、上半身だけ下着姿になると、ベッドにうつぶせになった。
 向こうからはこっちの姿は見えないようになっている。
 俺は周りを見回し、慌てて壁に飾ってあったゴブリンの仮面を付けた。

「お、お待たせしました」
 俺は深呼吸をしてから店に出る。
 別に正体がばれても困らないんだが、前回に蜂の巣にされたトラウマが……。

 クリスはベッドに寝そべった体勢で顔を向け、仮面をつけた俺を見て訝しげな顔をしたが、そこには触れなかった。
「お前、その服はモンクだな。レベル上げに飽きてアルバイトか?」
「え、ええ、まぁ。マッサージの腕に自信はありますよ」
「そうであることを願うぞ」
 クリスは不敵な笑みを浮かべる。相変わらずの貫禄だ。

「本日はどのへんがお疲れで?」
「肩と腰だ」

 クリスはパラディンの鎧だけを脱ぎ、上半身はブラジャー(コイツ、ブラの上に直接鎧を着てるのか?)、下半身はブラウンのミニスカートと黒のニーソックスといった姿だ。露出した背中と絶対領域がまぶしい。

 うーん、随分とクルセイダーと違う衣装だな。まるでプパの脱皮だ。


「まったく……バレンタインだか何だか知らんが、人が多くてウザいな」

 相変わらず口が悪いな。

「ええ、そうですね。今日のコモドはいつもの倍、混んでますよ」
 俺は接客トークをしながら、クリスの肩を揉み始める。

 ……か、硬ぇ。
 男並みに身体を鍛えてやがる上に、すごい肩こりだ。なんだこりゃ、鎧を脱いでもさらに鎧って感じだぜ。

「店は大繁盛かな」
「いえいえ、こっちはさっぱり」

 カップルは自分たちでエロマッサージするから店には来ねぇぜ。

「お前、チョコはもらえたか?」
 い、いきなりそれか。
「一個だけもらえるアテはありますが、これからですねぇ」
「家族からか?」
 ……コイツ、嫌なこと言うなぁ。

「いいえ、一応違います」
「そうか、良かったな」
「お客さんは誰かにあげました?」
「私は世間の下らん行事には乗らん」
 あ、そうですか。

 俺はこっそり発勁を発動しながら、凝り固まった筋肉をほぐしていく。肩に首筋、背中、と肌がうっすらとピンク色に染まっていく。

「……ん……」
 時々、気持ちよさそうな吐息が漏れるのが聞こえる。うむ、いい感じだ。

 俺はさらっと冗談っぽく聞いてみた。
「お客さん、イベントに乗らないにしても、ちょっといいなって思う人とか、気になる男性の一人くらいはいるんじゃないですかぁ?」
「気になる男か……」
 ふん、とクリスは鼻息を吐く。
「どうしても倒さねばならない男がいる。気になるといえばそいつくらいか」

 ……それ、明らかにチョコをあげるような『気になる』相手じゃねーだろ。

「じゃー、お客さんはもっと強くならないといけないんですね」
「そういうことだ。恋愛などにうつつを抜かしている暇はない」

 俺はパラディンのミニスカートの上から臀部を手圧し始める。普通の女の子なら嫌がるところだが、コイツもさすがに少しぴくりとした。
 引き締まった双丘を押すたびに、ミニスカートの裾が揺れる。うーん、いい眺めだ。

 ふと俺は、前回のPVPでのことを思い出した。
 コイツ、今回もエロパンツはいてんのかな。
 いや、風が吹いたらめくれそうなミニスカートの下にまさかそんな……。
 PVPならともかく、普段からそんなのはいてたら……。

 想像していたら、俺の愚息が首をもたげてきた。

「おい」
「は、はいっ」

 突然の厳しい声色に俺は思わずビクッとした。

「お前、上手いな。どうもそこが痛くてな」
「え、ええ。ペコに乗ってるとココが疲れるんですよね~」

 あーびっくりした。
 俺は適当に流しながら、お尻の筋肉を揉みほぐしていく。本当は異性にやっちゃいけないんだが、これだけ凝り固まってたらまぁいいか。

「……っ」

 ちょっとクリスが顔を歪めた。

「あ、痛かったですか?」
「いや、くすぐったかっただけだ。続けていい」

 クリスの頬がうっすらと朱に染まり、トロンとした眼になってきた。気持ちよくなってきたらしいが、なんか寝そうだな。

「お客さん、お疲れですねぇ」
「……うむ」

 お尻をほぐし終わり、ゆっくりと太股に移動していく。
 うわぁ、ココも岩のように硬ぇ。こりゃ大変だな……。

 一生懸命ほぐしている間に、ゆっくりと時がすぎていく。

「……すぅ」
 クリスが大人しくなったと思ったら、瞼を閉じて寝息をたてていた。

 こ、これは……。
 いよぉし!
 客が寝たとなったら、マッサージ屋がすることはひとつだけ!



 ……サボるッ!

 あ、ちなみにモロクだと荷物を盗まれるからよい子の皆は寝ないようにな。

 俺は手をとめて一息ついた。
 ずーっと他人の身体を揉んでるんだから腕が疲れるぜ。

「……ぅ……」

 クリスが呻きながら身体をよじった。
 そのまま寝返りをうとうとしたから、ベッドから落ちないよう手伝ってやった。

 が……。
 大きくも小さくもない、ちょうど手におさまるくらいのブラジャーのふくらみがぷるんと震え、思わず凝視した。
 視線を下にやると、ほんの少しだけスカートがめくれて、太股がかなりきわどいところまで露出している。

 クリスは全く起きる気配がない。

 俺は思わず顔を近づけて覗き込んでいた。
 仕事中……ではあるが、男なら当然、気になるだろ!

 俺はそっとスカートの生地の端を指でつまんで、ゆっくりと上へと引き上げていく。
 今日はどんなパンツをはいてるのかな。

 そこで目にしたものは……!

 女のふっくらとした股間、黒い茂みの下にうっすらと色づいた秘肉の花びらが見えた。それを覆うものは見あたらない。

 ……ノ、ノーパン!?

 思わず俺は丘の上に手を沿わせ、ギョッとした。
 こ、これは……目には見えないが、確かに『はいている』。指先に感触が伝わってくるのだ。

 思い当たるのは……と、透明な布?

 姿を消すオバケ、ウィスパーが身につけてるやつだ。手に取れば感触はあるが、目に見えない。そんな布だ。
 随分と古典的な……いや、それを身につける人間がいるとは。いや、縫ってパンツにする奴のほうが問題か?

 こういうときは、あれだ。

「ルアフ!!」

 スキルを使うと、その下着は姿を現した。
 純白のパンティ。
 しかし、布の面積は恐ろしく小さい。
 コレ、V字型に食い込んでるんですけど。痛くねぇのか?

 しかも、中心がちょっと濡れて透けてる……。

 俺は濡れた部分を指でなぞってみた。
 じっとりとした感触が伝わってきて、つつくと染みが周りに広がっていった。
 女の独特の匂いが鼻をついた。

 ……なんだこいつ、また濡らしてるのか。
 PVPで誰かを殺ってきた後だったりしてな……いや、マッサージ効果かもしれん。

 食い入るように眺めていると、ルアフの効果が切れてパンティが消えちまった。

 うーむ、見えないより見えたほうがエロい下着だな。

「ルアフ!!」

 俺はまたスキルを使って、クリスの秘所を指で弄り始めた。
 透明な液が溢れる場所よりちょっと上、茂みをかき分けて膨らんだ突起を指で探る。
 親指で下から上へと肉芽を愛撫する。

「……ん……」

 クリスが甘い溜息をついたが、起きる気配はない。

 俺は指を動かしながら、白い下着にじっとりと染みが広がっていくのを興奮しながら見ていた。

 スキルの効果が消えては、ルアフを炊いてわざと下着を見えるようにして弄くる。
 擦っているうちに、クリトリスが段々大きくなってきた。
 花びらから蜜が滴っては、透明な布に吸い込まれていく。
 ルアフが切れると、性器に水たまりができてるみたいに見えて変な感じだ。

 くう、もう我慢できん。

 俺はクリスの両足を抱き上げ、透明なパンティに手をかけると脱がし始めた。

「……んむ」

 クリスが呻き、ゆっくりと瞼を開ける。

 く、くそっ。起きちまったか。
 しかし、その気にさせればきっと前回のように何とか……!

「な……何をッ?」
 上半身を起こしかけ、寝ぼけた頭でクリスがわめく。

「お客様にバレンタインデーの特別サービスをですね」
 そう言って、パンティの下に指を潜らせて花びらの間に指を滑らせる。
 くちゅ、と濡れた感触とともに熱が伝わってくる。
 そのまま蜜をクリトリスに撫でつけ、コリコリと指先で擦り上げる。

「……はひぃっ」
 クリスがビクンと背を反らし、起きあがりかけた身体をベッドの上につけた。

「あ、あぅん……」
 寝たまま愛撫をしてたから、寝起きも夢見心地で気持ちよさそうだな。
 マッサージして血行がよくなってるし、感度はいつも以上のはずだ。

「き、貴様……」
 クリスが吊り目で睨みつけるが、既に涙目になっている。
「無料サービスですので、ご遠慮なさらず」
 そのまま一気に指先を上下に動かし、クリトリスを一心に擦る。
「……や……ら、らめろ……」
 怒りなのか羞恥心なのか、顔を真っ赤にしながらクリスが呻く。抗議の声も呂律が回らずに言えていない。
「……は……ひ、っちゃ……」
 クリスの両足が小刻みに震え始めた。
 念入りにマッサージしたから、力も入らない様子だ。

「お客様、どうぞ気持ちよくなって下さい」
「……ひっ……ひっちゃうッッ」
 悲鳴をあげ、ビクビクッと身体を震わせて、クリスは気を達した。
 ガクリと脱力すると、上気した身体をだらんとさせて、天井を見上げならが熱い息をハァハァとついている。

 こうなるともう止まらない。
 俺はクリスのブラジャーの下から指を差し入れて上にずらした。ツンと上を向いたピンク色の乳首が露わになる。

 さすがに感じて固くなってるな。
「お、おい……ひぁっ」
 指できゅっとつまみ、クリスの抗議の声を遮る。乳首を指の間にはさみ、手を広げてやわやわともみしだく。

「……っ」
 片手を離してゆっくりと腹の上に掌を滑らせる。
 マッサージで血行が良くなった体温が気持ちいい。
 クリスは涙目になって感度の上がった身体をただピクピクと震わせている。

「お客様、宜しければ無料サービスがもっと受けられますが……」
 断ってもやるつもりだけどな。
 そして、再び下腹部へと指を這わせ、固くなった肉芽を乳首といっしょに指先でつねる。
「あうっ……」
 頬を赤らめ、涙目のままでクリスは目をそらしながら言った。
「ぉ……お願いする」

 えええええええ、まじでー。
 自分でやっといて何だが、こんなに上手くいくとは思わなかった。

 俺は指を伸ばして、一度イって蜜の溢れる花弁をかき分けてゆっくりと挿入していく。
 コイツ確か処女だからな、一応気を遣って……。

 案の定、途中で引っかかってなかなか指が入らない。お腹の内側あたりで指をクイッと曲げると、クリスの背が跳ねた。

「お客様、ここが気持ちいいですか?」

 ざらついた粘膜を指先でコリコリと擦る。
「……ぅあっ……あ……」

 クリスはたまらなそうに身体をよじらせた。

「ここがいいんですね?」
 今度は指を引き抜き、そこを狙って容赦なく突き上げる。

「あひっ……ぁ……そこっ……へ、変……」
 何度も指で突いていると、ねっとりとした愛液が指を伝って降りてきた。
 中は随分と熱くなっていて、前回の何倍も感じている。

「お客様、指を増やしますよ?」
 Gスポットを突きながら、指を二本、三本と増やしていく。膣内の引っかかる部分は段々となくなっていった。
 中で襞が絡みつき、入り口あたりがきゅうっと指を締め付けてくる。

 は、早く……入れたい……。
 俺の息子はギンギンに直立していた。

「あーっ……うっ……んひぃっ……」
 クリスは矯正をあげっぱなしだった。目尻から涙が零れ、大きく開いた唇からは涎が垂れそうだ。

 俺は指を引き抜くと、ズボンを下げてペニスを取り出す。
 気づいたクリスがこちらを見たが、黒々と天を指す俺の宝刀を見ても、前のように悲鳴をあげたりはしなかった。

「お客様、ちょーっと痛いかもしれませんよ」
 俺はベッドの上に上がると、ニーソックスに包まれたクリスの太股を大きく開き、ゆっくりと挿入していった。
 先っぽが入ったあたりで何かが引っかかったが、身体をよじって回転させながらズブズブと突き入れた。

「……い、痛ッ……」
 クリスが眉をしかめてベッドのシーツを掴んだ。

 あ、やっぱ痛かったか。

 それでも俺を突き放すような動作はせず、じっと耐えている。
 ようし、慣れるまで突こうじゃないか!

 俺は先端をGスポットに当てるように動かし始めた。
 クリスは固く唇を結んで、獣のような呻きを漏らしている。
 何というか、気の強い女が眉間に皺をよせて痛みを堪える姿ってのも色っぽいもんだ。変な趣味に目覚めそうだぜ。

 俺が前後に動く度に、クリスとの結合部からは赤い液体が糸のように垂れ、絡みつき始めた。

 何度もクリスの腹の内側を突き上げ、部屋の中には身体のぶつかりあう音と水音が響く。

「……ぁッ……」

 やがて、クリスの声に艶色が混じり始めた。

 痛みと緊張で血の気の引いていた頬に、赤味が戻り始める。
「……んっ……あう……っ」
 濡れた唇が開き、呻きが喘ぎに変化していく。

「お客様、痛みは引きましたか?」
「う……あぁ……なんか、変な……」
「変な感じですか?」

 俺は腰を引き寄せ、グイっと奥まで深く挿入する。
「ひあっ!」
 クリスが悲鳴をあげた。
 とはいっても、もう痛そうな表情ではない。

「……うぅっ……んあ……あっ……」
 そのまま前後に動かしていると、クリスが喘ぎを漏らし始めた。

「……ん……イイ……ぞ……」
 熱い息をつきながら、虚ろな瞳で呟く。
 自分から腰を擦りつけてくるようになってきた。
 そろそろ本気でいくかな。

 俺は両手でクリスの腰を抱き寄せると、勢いよくピストン運動を始めた。
「……あひぃっ……」
 ガクガクとクリスの身体が震える。
「あっ……ぅ、強いッ……」
 目の前でクリスの乳房がふるふると揺れている。
 そのうちのひとつに手を這わせ、揉みしだきながら、俺はクリスを突き上げた。
「あぁっ……壊れるぅ……ッ」
 クリスの膣内で、粘膜がぞわぞわと俺に絡みついてくる。
 うう、気持ちいい。
 も、もう出そうだ。

「お客様、出ますよッ?」
「あっ……やだっ……まだダメぇっ……」
 クリスが潤んだ目で叫ぶ。

 ぐっ……。
 俺は射精感をこらえ、ひたすら肉棒をクリスの中に突き立てる。
 その間も、ねっとりとしたクリスの粘膜が俺を責め立てる。
「……いいっ……いいのぉッ……」
 激しく突き上げていると、クリスの中がぎゅうっと締め付けてきた。
 熱い快感が身体の中心を走り抜け、膣内が小刻みに震えるのが分かった。
 く、こ、これはもう無理だっっ。出るぅっっ。

 俺は息子を引き抜いた。
 勢いよくペニスが揺れ、クリスの腹にビュビュッと大量の白濁を放出した。

「んぁっ……!?」
 クリスは呆然と自分の下腹部を見下ろしている。自分でも驚くくらいの量が出てしまった。

 乱れた息を整えながら、クリスは指で精液をすくい、鼻先に近づけて言った。
「……すごい、変な……匂い……」
 そして、舌先でペロリと舐めた。

 うっ。
 なんかエロいな。

「……まずい。塩からい」

 そ、そうなのか……。
 俺は舐めたことないが……。

「おい」
 突然、いつもの高圧的な言い方で呼ばれ、俺は反射的にかしこまって応えた。
「は、はいっ」

 クリスは汚れた自分の腹を指さして言った。
「ボーッとしてないで、さっさと拭くものを持ってこい」
「か、かしこまりましたぁ!」



 数分後。
 蒸したタオルで身体をキレイに拭き取り、元通りにパラディンの鎧を着込んだクリスから俺はマッサージ料をもらっていた。
 別に高くも安くもない、価格通りの料金だ。
 いやー、ああいう思いをして金をもらうってのも悪い気がするな。へっへ。


 クリスは立てかけていた槍を装備して俺のほうを向いた。
「さて」
 変な間があった。
「お前には強姦罪が適用されるわけだが」

「……ぇ」
 俺はゴブ仮面の下でさぁっと青ざめた。
 そして、クリスが槍を構えると同時に、俺は殺気を感じて間合いを取っていた。

 ま、まさかコイツ、わざと……。

 クリスは腰につけた鞄から何か包みを出した。
 バーサクでも飲むのかとおもいきや、それは可愛らしい包装紙にくるまれた茶色い塊……イチゴにチョコレートをかけたものだった。

 それを1個、口に放り込んで味わいながらクリスは言った。
「冗談だ」

 ま、まじでぇぇぇぇぇぇぇ。

 そして、新たに1個を口にくわえると俺のほうに突き出した。

 な、なんだ?

 クリスは少し眉間に皺をよせた。
「気の利かない男だな。私からのサービスだ」
 あ、俺にくれるのか……。
「す、すみません」

 俺はクリスに近づき、仮面を外すと口移しでチョコレートを受け取った。
 生暖かくて柔らかい唇の感触、甘いイチゴとチョコレートの香り。
 俺はちょっぴりドキドキしながら受け取って、果実を噛む。

 って……イチゴ、すっぱっ。
 ちょっとこれ、マジすっぱいんですけど! 甘いチョコレートに酸っぱいイチゴって……合わねぇ!

 口をすぼめる俺をニヤニヤと見つめながら、クリスは言った。
「チョコレートと一緒に食べて酸っぱくない果実など、バナナくらいしかないのにな。コックは皆マニアックな味覚をしているとしか思えん」

 そして、ぎらりと目を光らせて言った。
「そう思わんか? ウムガ=フムタン」

 な、なぜ俺の名前をっ!?
 ……はっ!
 口移しでチョコイチゴ!
 あれは仮面を外させるための罠だったのか!?

 俺が無言で青ざめていると、クリスは笑い出した。

 な、なんなんだっ。

「くっく。お前がココで働いていることくらい把握していたさ。様子を見に来ただけだ」

 え……。

「ちなみに今日、お前がもらえるチョコはさっきの1個だけだ。お前がお気に入りのプリちゃんの店は、違法営業がバレて家宅捜索の真っ最中だ。今日は営業中止だな」

 な、なんだって!?

「お前は商売女に次々と引っかかるから、捜査する側としては便利だ」

 ひ、ひでえ……ああ……プリちゃん……。

 クリスは店の扉を開ける。外はすっかり夕焼けに染まっている。コモドが一番綺麗な時間……だと俺は思う。
 クリスは振り向いて言った。
「ま、そんなわけで、今日も楽しませてもらった」
 い、いや、楽しませてもらったっつってもアンタ、処女……。

 俺が戸惑っていると、クリスはちょっぴり憂いのある表情をした。
「……三十路近くで処女だなんて重いだけだ。お前にくれてやる」

 ……!?
 い、いや、そりゃそうかもしれないけどよ。
 ……や、やっぱコイツ、分かんねー!

 俺がまごまごしていると、クリスはいつもの偉そうな表情に戻ってニィッと笑った。
「また会おう。次はできればホワイトデーあたりに」

 ぶっ。
「わ、分かった。準備しておく」
 俺は真面目に答えた。


「……一応、義理じゃないからな」
「……はっ?」

 一瞬、頭が真っ白になる。
 クリスは夕焼けのせいか、少し顔が赤らんで見えた。

「ま、本気でもないが」
 そして、今回はペコに乗って去らずに、そのまま蝶の羽を握りつぶして姿を消した。

 なっ……。
 い、言い逃げかよ!? 訳が分からねぇ!

 俺は呆然と立ちすくんでいた。
 クリスがいなくなった後も、口の中に、甘いチョコとすっぱいイチゴの後味が残っていた。

(つづく)